2008年04月22日

混迷するHビザ事情

2009年度分のHビザ(非移民就労ビザ)の申請分がすでに一杯になっている状況です。
年間6万5千件(プラス大学院以上修了者2万件)しか許可されないのですが、今年度の申請については申請の受理がはじまった2008年4月1日から一週間で16万3千件集まったようです。

許可可能な数の2〜3倍の申請数が集まっている現状です。ここで、移民局は抽選をつかって、審査に進める申請分を決定することになりました。各サービスセンターに申請書が集まってきているわけですが、各申請書に対して、申請番号を振っていき、そのうえで抽選をするそうです。抽選にあたると、その番号が各サービスセンターに通知され、申請書の審査が始まるわけです。

抽選に「あたった」場合には、移民局から通常申請書の受理に対して発行される「受理通知(Receipt Notice)」をもらえることになります。その受理通知は、2008年6月2日までに送付されるということになっています。受理がされているかどうかは、6月2日まではわからないということになりますね。もし、抽選に漏れた場合は、申請費用とともに、申請書類が返戻されることになります。少なくとも申請費用は無駄になることなないようです。

申請に対する移民局の行政審査は、4月14日から始まっているようです。プレミアム・プロセッシングもすでにはじまっているようです。審査がはじまってから許可まで8−10週間かかるということですので、はやければ、6月中には、許可、不許可がわかってくることになると思われます。

抽選にもれると、申請書が返送されることになりますが、なかには、「ウェイト・リスト」に載せられる申請分もあるということです。この場合、当選した分の申請が拒否されたり、不許可になると、繰り上がって審査されることになるようです。これらの分については、移民局が返戻せずに、保持します。ウェイト・リストに載せられた申請分については、移民局がその旨の通知を各申請者にだすようです。ウェイト・リストに載せられると、6−8週間以内に、受理通知もしくは、不受理で返戻されることになります。

以上が4月はじめのHビザのばたばた劇でしたが、まだどのように審査が進むのか不明な部分もあります。また、返戻されてしまう申請書が多く発生することは必須です。学生ビザ等ではなく、仕事をするかしないかが、かかってる就労ビザを待つのは外国人の被雇用者にとっては苦痛でしょう。しかし、国策が強く反映されている就労事情については、法律ではなく政治なので決められた内容に皆が従わなくてはならない部分です。もし、Hビザがだめだったらどうしよう、ということを考える外国人の方も多いかもしれませんが、他にもEビザやLビザといった可能性も含めて、他のプランニングもしておくことが大事だと思います。

Hビザに関しての話題は以上です。
別の話題ですが、最近韓国も査証免除プログラムに参加することになりました。つまり、韓国人の方もビザなしでアメリカに最長で90日間、入国することができるようになります。アジア各国にとっては便利になってきました。私も韓国人の方から相談を受けることがありましたが、これで短期滞在に関しては多くの問題を解決してくれることになります。皆さんの周りの韓国人の方がいらっしゃれば、ぜひ教えてあげてください。  
Hビザ

2008年04月08日

査証免除プログラムについて

 日本では桜の季節ですね。卒業、入学、入社等々おめでたい時期です。ご家族やご友人でも新たな一歩を踏み出す方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 さて、今回は査証免除プログラムについて考えたいと思います。Visa WaiverProgramと呼ばれるアメリカに上陸および入国する方法です。日本から短期でアメリカを訪問する際にはよく利用されると思います。何度かこの査証免除プログラムは取り上げていますが、いまだによくこのプログラムのことを理解されていない方をみかけます。ぜひ、査証免除プログラムでアメリカに入国した際に何ができるのかできないのか、今回理解されてください。

 まず、査証免除プログラムでアメリカで入国される方は入国の際に薄緑のI-94Wという書類に記入の上審査を受けることになります。このI-94Wという書類には、いろいろな質問が書かれていて、その質問に虚偽の無いように記入しなければなりません。査証免除プログラムを利用するには、少なくとも自国のパスポートが6ヶ月間以上の有効期限がなくてはなりません。査証免除プログラムでアメリカに入国すると最長で90日間アメリカに滞在することができます。入国の際、正式な要件として、アメリカから出国する、いわゆる「帰りのチケット」を持っていることが必要ですが、特に入国の際提示を要求されないケースも多くあるようです。査証免除プログラムでアメリカに入国することができる目的は、観光およびビジネスです。ビジネスといっても、アメリカ国内でお金を稼ぐ目的で入国することは含まれません。すなわち「商談」ということで理解されておけば良いと思います。その他の目的で入国される方は、必ずなんらかのビザを得る必要があります。
ここまでは基本的な情報です。では、以下よく耳にする質問を考えていきましょう。

 査証免除プログラムを使って90日間は滞在をできるわけですが、よく延長はできないか、という質問を受けます。答えは延長することはほとんどの場合できませんので、必ず90日間滞在したら出国しましょう。例外として、滞在期間中にアメリカ市民と結婚をして、永住権を申請する方法があるといえばあるのですが、この方法は最近センシティブなので、必ず法律家の専門家に相談してください。このような場合を除いて、延長をする申請はアメリカ国内で用意されていませんので、90日間を超える滞在があると不法滞在ということになりますので、注意してください。もし、もうちょっと長期でアメリカに滞在したいという場合には、必ずアメリカ入国前に査証を得てください。

 一旦アメリカに査証免除プログラムを利用して入国して、不法滞在をした場合、再度査証免除プログラムで入国できるのか、という質問を耳にします。この点について、再入国に関しては必ず査証を取ってからでないと入国はできません。査証免除プログラムでアメリカに入国する時に、I-94Wという書類を記入して提出するわけですが、その内容には「アメリカ滞在中は法律を犯しません。」と誓っていることが書いてあります。ですので、不法滞在をしてしまうと、入国の際の約束を破ってしまったことになります。一旦約束を破ってしまうと、もう査証免除プログラムを使うことは基本的にできません。ですので、なんらかのビザをとっての再入国ということになります。ただし、一回不法滞在をしていると、次回簡単にビザを出してもらえるのかはわかりませんので注意が必要です。

 もうひとつよく聞かれる質問ですが、90日間アメリカに滞在し、その後、カナダかメキシコに出国し、再度アメリカに90日間滞在できるか、というものです。移民局の見解としては、カナダやメキシコに出国した場合、もともとの90日間の範囲であれば、再度アメリカに滞在できるということです。ですので、アメリカに40日間滞在して、カナダに10日間いたら、90日間の残りの40日間は再度アメリカに入国ができるということになります。再度アメリカに入国する際には、もちろんアメリカを出国するための飛行機のチケット等の要件は必要になることは前提です。ですので、短期間アメリカをでて、再度入国するというのは、難しいことになります。もちろん、私が聞き及んでいる範囲では、再度入国する際に、90日間の時間をもらえているケースもありますが、このようなケースがあるからといって、自分の都合の良い情報に頼るのは注意してくださいね。自己責任です。

 査証免除プログラムを使って、何度もアメリカに入国できるのか、という質問もよく耳にします。しかし、これは本当に入国の際の裁量ということになります。外国人がアメリカに入国するのは、あくまでも政府の裁量ですので、(外国人が日本に入国するときももちろん裁量ですが)ケース・バイ・ケースで判断がされます。私の知っている事例では、90日間滞在したあと、一週間程度日本に滞在し、再度90日間の入国を3,4回繰り返しても何も言われないケースもあります。一方、60日間程度アメリカに滞在し、一ヶ月間程度あいだをあけたにもかかわらず3度目の入国ができなかったケースもあります。私が話しを聞く限り、やはりアメリカに「住んでいる」というような証拠があったり、理由を説明してしまうと入国が拒否されるケースが多いようです。とにかく、納得し易い理由を考え、日本に帰国する意思があるということをはっきり説明できる必要があります。人によって理由も違うでしょうから、各人ごとに考える必要がありますので、人の言うことを鵜呑みにしないでください。

 次回また新しいトピックを考えていきたいと思います。  

2008年03月25日

そこまでやるかなぁ・・・査証に関する詐欺的行為について

 ずいぶん陽気がよくなってきたと思いますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。花粉症の方も多いのかもしれませんが、めげずに春を楽しんでください。

 さて今回のじんけんニュースは弁護士が有罪になってしまった事件について皆さんに考えていただきたいと思って取り上げたいと思います。

 3月の初旬、2名の弁護士と2つの就職斡旋業を営む会社の役員が移民法にかかわる詐欺で有罪を認め、一人の弁護士は24ヶ月の実刑と75万ドルの罰金が科され、他の被告人も重い罪で処断される事件が連邦裁判所でありました。実刑というのは実に重いとは思います。しかし、どのようなスキームをすれば実刑になるのか、皆さんにも知っておいていただきたいと思います。

 起訴されて有罪を認めた弁護士の一人は実に33件の事件で起訴されました。33の独立した実行行為があったわけですが、その内容は詐欺的な方法によって、ビザや永住権を取得した、という内容です。興味深いのは自分の法律事務所で19人雇ったことにして、ビザを発給していたということです。雇用の実態はないのに、アメリカに入国し滞在することを外国人に提供していたのですね。

 スキームは結構複雑なやり方でした。移民局などがずいぶん事件を内偵していたのでしょう。まず、就職斡旋業を通して、ビザの基準に満たない経験を持つ人達を、紙のうえでは経験あり、ということにして、いろいろな書類を作成します。弁護士と就職斡旋業が共謀すれば、いろいろな書類は形にできるわけです。そのうえで、法律事務所内で虚偽の情報をもとに、移民局に対する申請書を作成し、内容にまちがいないとして、提出します。この方法を繰り返し、外国人にビザを発給していたのですが、結局ばれてしまった訳です。

 捜査資料の詳細はわかりませんが、逮捕のきっかけになったのは、書類上なにか怪しいところがあったというだけではなく、たぶん内部告発または、受給者がなんらかの形で官権の目に留まったのでしょう。もちろん、このように大きなニュースにするのは、法律事務所関係者に対する萎縮効果もあるでしょうが、とにかく数が多すぎたのが敗因なのだと思います。結局就職斡旋業の役員達も逮捕され、ビザを受給した者も強制送還の対象になるわけですから、プラスになることは何もなかったのではないでしょうか。

 移民法というのは、行政法ですから、通常の法律と違って法律論を交わすという面は非常に少なく、「どれだけ書類が用意できるか」という面が強調されます。もちろん、正当な方法で書類を集めることは大事なのですが、そのことばかりを気にしていると、虚偽の書類なども用意するような輩がでてきてしまうのですね。よく私が聞くのは、悪知恵を外部でつけられて、事情をしらない弁護士が書類を作成して出してしまう、というケースです。弁護士が出し抜かれてしまうわけですね。これは弁護士からみると「間抜け」ですが、実際少なくないようです。もちろん、ビザが欲しい、永住権が欲しいという方は多いのかもしれませんが、虚偽の申請をしてまでして、アメリカに住みたい、というのに乗せられるのは、なんとも悲しいことです。しかし、もっとひどいのは今回のような弁護士ですね。外国人の中には、本当に事情を知らずにこのような弁護士に任せてしまい、結局強制送還になってしまったケースもあるでしょう。たぶん安くない弁護士費用を支払ったりもしたのでしょう。消費者の立場からどの弁護士を選ぶか、ということは切実な問題なのかもしれません。しかし、このような事件に巻き込まれないように、とにかく調子の良い話しに飛びつくのだけはやめてくださいね。うまい話には必ず裏があるというのは、常識です。
また次回までさようなら。  

2008年03月07日

アメリカ入国と刑事事件の逮捕状について

ひな祭りですね。子供さんのいる家庭では、ひな人形を飾っておられるかもしれません。日本の伝統はぜひ守ってほしいですが、一体どの程度の家庭でひな人形というのは飾っているものなのでしょうかね。子供のころは、菖蒲などをお風呂にいれて入ったり、お彼岸のときには、野菜に足をつくって立たせたりした思い出があるのですが、こういった習慣はまだ続いているのでしょうか。続いてほしいものです。

 さて、今回は三浦さんが紙面やテレビを少なくとも日本では賑わせているようですが、外国人がアメリカに入国する際の逮捕の状況について、少々考えてみたいと思います。いくつかのメディアから質問を受けた内容と重複しますが、皆さんに知っておいていただきたいことなので、ここで考えます。

 20数年前の事件でなぜ今頃逮捕するのか、という話題でまずもちきりでしたが、実はこのような逮捕は、刑事事件と移民法のシステムを知っている者にはあまり驚くことではありませんでした。実際、アメリカで罪を犯したと思料され逮捕状が出ている場合、その外国人が逮捕されずにアメリカ国外に出ると再入国の際に逮捕されているケースはこの5、6年少なくありません。今回の三浦さんの逮捕はサイパンだということで、アメリカ国内ではないので、その点通常のケースとは違いますが、たぶんこのように逮捕されていると、カリフォルニアに移送されることにはなると思います。弁護人は、もちろん移送を争う手もあるのかもしれませんが、早急にロスアンジェルスの州検事局と保釈等の条件につきネゴをはじめるべき事例ですね。

 アメリカの移民局が、連邦の裁判所や行政機関と組んで外国人に対して逮捕状や起訴をされているケースをコンピュータで一元管理をはじめたのは、2001年の同時多発テロ以降数年経った時です。2003年頃には、コンピュータが直結されるようになり、入国審査のときに、逮捕状、起訴の事実、それに過去の犯罪歴もでるようになりました。連邦の官憲、たとえば移民局、国税局等から逮捕状がでていると即座にコンピュータにでるので、その場で逮捕できるようになったのです。同時多発テロは外国人でアメリカ国内で犯罪歴がある人間が犯人の一人でしたから、外国人対策に力をいれたわけです。その後、連邦だけではなく、各州もそのシステムに情報を直結するようになったので、州の裁判所や行政機関にある情報も入国審査のコンピュータにでるようになったわけです。私が担当した事件でも、80年代に万引きをした人が永住権を持っていても、入国審査で引っかかった事例もありました。アメリカで事情を聴取されただけの事例で、逮捕されず、何も問題ないということで日本に帰国し、数年後再入国するときに逮捕されてしまった、という事例もありました。ですので、過去に犯罪歴のある外国人が逮捕されるケースは格段に増えてきたのです。ここ5,6年はそういった刑事事件の弁護のケースも増えてきました。

 でも、今回三浦さんはサイパンに入国しようとして捕まっているので、上記のシステムは関係ないのでは、と思う方もいらっしゃると思います。直接アメリカに入国しようとしたわけではありませんね。ところが、上述した、システムを導入したことで、国外に逃げていた犯人がこの5,6年多く逮捕されるようになってきたのです。古い事件でも、起訴されていれば公訴時効は停止しますので、「もう大丈夫だろう」と考えて再入国を試みる犯罪者もいますね。一度逮捕されていれば指紋もとられていますので、最近入国審査で導入された指紋認証システムで、ひっかかる人もいるわけです。そうすると各警察署も、古い事件の解決に向けて積極的に動きます。テレビ番組でも古い事件を扱う番組が多いですね。もちろんDNA鑑定などの技術の進歩もありますが、多くは外国に逃亡していた犯人が捕まるというパターンが顕著になってきているのです。コールドケース(ColdCase)と比喩される古い事件に対応する部署についても、各警察署で、この5、6年活発につくられていますが、上記のシステムの導入とは無関係ではないのです。

 このようにみれば、80年代だろうと、古い事件が最近になっていきなり動き出した背景がわかっていただけるのではないでしょうか。ある意味、移民法についての改正が影響しているのですね。ですので、もし過去にアメリカで逮捕される危険性がある行為をしている人は、再入国の時には注意が必要なのです。
また次回新しいトピックを考えていきたいと思います。  

2008年02月19日

外国人を被告人とする刑事事件と強制送還の可能性についての一考察

 最近、寒い日が続きますね。ベイエリアも年明けからめっきり寒くなりました。スキーが好きな方には絶好のコンディションかもしれませんね。
今回は、私が担当した事件を使って、移民法の難しさを知っていただきたいと思います。
ベイエリアではある畑違いの業者が非弁まがいの宣伝をして「移民サービス」を標榜していることが私の耳に入りました。弁護士など移民法業務には必要ない、ということを言っているそうです。そもそもやっていることが法律的に問題です。そういう非弁活動でお金を稼いでる本人は自分は良いのでしょうが、人生をかけてビザや永住権を取る人達が犠牲にならなければ良いと憂慮しています。今回は、なぜ移民法でも弁護士としての法的判断が必要な場面があるのか、書類だけつくっているわけではない弁護士の業務を皆さんに感じていただきたいと思います。

 その刑事事件は重罪(Felony)で逮捕・起訴されてしまった日本人が被告人となっていました。カリフォルニア州地方裁判所に係属する事件です。弁護を受任して事件記録を読むと、罪名には、傷害罪、強盗罪、そして証人威迫罪の三罪が記載されていました。起訴事実をみると、目撃者もいて、かなり無罪に持っていくのは難しい事件でした。本人もある程度事実を認めているので、陪審裁判で闘うよりは、ある程度罪を軽くして、被害者と示談もする、というパターンの事件であるという方向性が考えられました。

 問題は、被告人は日本人で現在永住権の申請中でした。家族の付帯として永住権を取得する予定で、他の家族のメンバーは全員とれていますが、今回の被告人だけは、保留にされてしまい、移民局に出頭面接するように通知が来てしまいました。最近の移民局はコンピュータネットワークで、アメリカの各州の地方裁判所の事件記録まで読むことができます。ブッシュ大統領が多大なお金を「ナショナル・セキュリティー」に投資した結晶でしょうか。その日本人が移民局に呼び出されて、罪に関して認めると強制送還の対象になってしまいます。もし仮に強制送還になってしまうと、家族と離ればなれになってしまうだけではなく、再度のアメリカ入国が難しくなる可能性があります。

 移民法は連邦法であり、州法とは原則まったく関係がありません。二つ違う国の法律のようなものです。しかし、今回の被告人は外国人ですから、もしカリフォルニア州の裁判所で有罪判決がでると、その判決内容を連邦の行政機関である移民局が、永住権を発行するかどうかの判断材料として使えるのです。ですから、刑事事件の処理も、移民法に密接に関係するので、両方の法律を熟知する必要があります。

 移民法には道徳違背の罪(Crime of Moral Turpitude)というわけのわからない強制送還事由が規定されています。道徳違背とはなんだ、ということになりますが、条文で規定はありません。すなわち移民局は、行政機関としての裁量を行使して、いろいろな刑事事件の罪を道徳違背だとできることになります。この点、州の裁判所で罰金で終わるような罪でも道徳違背だと決定される可能性もあるわけです。罪の種類でも、麻薬関連と売春関連については明文で強制送還事由だと定められています。しかし、その他の刑事罰については、道徳違背の罪になる可能性があります。道徳違背の罪の内容というのは、明文で決められていませんから、主に判例に頼ってルールが生成されてきました。膨大な数のケースから、いろいろな種類の「道徳違背」がつくられてきました。

 今回の刑事事件の罪名は傷害、強盗、証人威迫罪ですが、うまく司法取引に持ち込んで、3つの罪のうち一つを認める、ということで、なんとか実刑を免れるようにできないかという方向に持って行けないか考えました。すなわち、移民法で2つ以上の重罪がつくと、その時点で強制送還が確定する可能性があります。これも道徳違背とは別のルールです。罪名をひとつにできれば、判例から解きほぐして、うまく道徳違背の罪を避けられるという可能性がでてくるからです。

 ここで、強盗と証人威迫罪は絶対に避けなくてはいけませんでした。道徳違背の罪と認定される可能性が大です。そこで、傷害罪について、司法取引が可能か検察と交渉することになりました。もちろん移民法のことばかりに気を払ってられませんから、刑事事件にしても、精神鑑定を請求したり、被害者と示談をしたりするように進めていきます。結局精神鑑定で、被告人に有利な鑑定結果が出され、実刑ではなく執行猶予付で精神医に通うという形に落ち着きそうでした。

 検察と私とである程度、罪の内容についても合意に達してきたとき、究極の問題が発生しました。被告人が起訴されている罪はカリフォルニア州刑法第245条(a)項という罪で、傷害罪でも、死傷を発生させる故意で傷害した、というおまけがついてきます。この「死傷を発生させる故意」があると、道徳違背の罪に移民法上ではなってしまいます。これでは私は受け入れることはできません。そこで、私は同刑法第243条(e)項の罪、武器を使用した暴行罪はどうかと提案しました。この243条(e)項であれば、判例上道徳違背の罪とはなっていません。もちろん絶対的に「大丈夫」とはいえません。将来、この事件が移民法上こじれて、たとえ現在243条(e)項は問題無しとされていても、判例が変わってしまうかもしれません。ただ、検察は、重罪から軽罪に落とすことは絶対にしないと言っている事件なので、どうしても、245条よりも243条の方が移民法的には有利だったのです。

 しかし、一方カリフォルニア州の刑法では、3ストライク法という制度が取り入れられています。日本では馴染みがないかもしれませんが、累犯に対して、三回暴力犯罪を犯した場合には必ず終身刑を言い渡さなくてはならないという厳しい制度です。カリフォルニア州の刑法で、どの罪がストライクとなるのか決められていますが、今回の場合は、245条の罪はストライクとカウントされず、一方243条の方はカウントされてしまいます。移民法的には243条の方が良いのですが、刑法的には245条がベターです。もし、243条の方を選択すると、次に暴力犯と認められると、二回目のストライクでも必ず裁判官は実刑を言い渡さなくてはなりません。

 究極の選択になりました。私は243条はストライクになるが、永住権の確保のために良いのではないか、ということをアドバイスはできますが、やはり最後にはクライアントである被告人が決めなくてはなりません。決めるために必要なのは刑法と移民法のアドバイスですね。私は長々と説明をし、理解をしてもらいました。最後には、結局243条の方を選択し、有罪を認めました。しかし、これほど刑法と移民法が「ねじれ現状」を起こす事例はなかなかないと思います。このように移民法だけを知っていてもアドバイスはできず、刑法だけ知っていてもアドバイスができないことをわかっていただけたのではないでしょうか。ですから、確かに移民法の業務は書面をつくったり書類を集めたりすることが多いのですが、ちゃんと法廷をやっていないと、生の事例をみることができず、正確な移民法上の判断もできないと私は思っています。

 付け加えると、刑法と移民法を知っておかなくてはなりませんが、このように日本人がアメリカで傷害を起こす事例では、実は日本の刑法においても定められています。すなわち刑法第3条の9号において、刑法第204条の傷害の罪は日本人が日本国外において罪を犯した場合には罰することができる、となっています。今回の事件は実刑は免れましたが、日本の刑法第5条において、外国において確定裁判を受けた者であっても、同一の行為について更に処罰することを妨げない、と規定されていますから、本来であれば、ここまでアドバイスができることが弁護士には要求されているのだと思います。
それでは、次回までさようなら。今回はたくさん書きすぎました。読むのが大変でしたら申し訳ありません。  
強制送還